Teaching Portfolio
教育ポートフォリオ
日本の大学では、教員が授業で何をしているのかが外からほとんど見えません。シラバスは公開されても、実際に何をどう教えたのか、それがどう効いたのかまでは残りません。
見えるようにはできるはずだと考えているので、まず自分でやってみることにしました。担当してきた科目、授業ごとのサイト、授業設計が実際にどう働いたかのデータを、ここに置いていきます。
| 大学 | 時期 | 科目 |
|---|---|---|
| 北海道大学 | 2024– | 英語I、英語演習、英語特定技能演習(発信・受信)、メディアリテラシー、メディア社会論演習 |
| 東洋大学 | 2021–2024 | マスコミ倫理・法制論、ジャーナリズム論、映像メディア制作、メディアスタディーズ、基礎ゼミ、2年生ゼミ、新聞活用プロジェクト |
| 北里大学 | 2020–2021 | 専門英語基礎(オンライン) |
| 同志社大学 | 2016–2020 | サイエンスコミュニケーター養成副専攻(アウトリーチ実習の英語プレゼンテーション)、英語、比較言語文化 |
| 青森公立大学 | 2015–2016 | Business English |
職歴の詳細は CV を参照してください。
(発信)
(受信)
担当してきた授業のサイトです。秋学期のものは、できしだいここに追加します。
アメリカの大学で学士課程を受けました。大きな教室での講義で全体像をつかみ、少人数のクラスで議論する。この二つが組み合わさって一つの科目になっていました。日本の大学で教えるようになってからも、勤め先の条件に合わせながら、同じ組み立てを使っています。
大人数の講義では、聞いて終わりにならないよう、毎回その日の内容について書かせます。少人数の演習では、一人が英語で話す回数を増やします。いま担当している語学の科目では、英語そのものよりも、英語で扱う中身のほうに時間を使います。
語学の科目は、第二言語習得の研究で分かってきたことを踏まえて組み立てています。うまくいかなかったことも書きました。成功した例だけを並べても、記録としては使えないためです。以下がその中身です。
1,680件のリアクションペーパーが示したこと
大人数の講義だと、一人ひとりが何を考えているのかが見えません。そこで毎回、その日の内容についてリアクションペーパーを書いてもらいました。試験の点数だけで判断するのではなく、途中で何が起きているかを受け取って次の回に反映するためです。14週で1,680件が集まりました。あとから回ごとに記述量を並べてみると、授業の組み立てがそのまま数字に出ていました。
各回の記述量の中央値です。赤が最も伸びた回、灰色は事務連絡と出席確認の回にあたります。
抽象的な原則から入った第1回は104字でした。判断が分かれる具体例を扱った第3回では310字まで伸び、この回だけ4分の3近くが200字を超えています。第8回と第12回が短いのは、レポートの書き方を説明した回と、設問を短く答える形にした出席確認の回だからです。回答数は14週を通して81件から103件のあいだで、途中で書かなくなった学生はほとんどいませんでした。
ただし、選択必修の大人数科目です。関心の薄い学生も少なくありませんでした。具体例を置いた回に反応が集まったのは事実ですが、クラス全体を動かせたとまでは言えません。同じ学部で担当したジャーナリズム論でも、興味を持った学生からは手応えがありましたが、全体としては最後まで試行錯誤でした。
何を書けば通るのかを、文で示す
評価の観点を箇条書きで並べても、書き方までは伝わりません。そこで、通らない文と通る文を実際に並べた資料を作って配りました。軸は4つあります。
通らない例には、自分の授業を批判する架空の文を作って使いました。学生が書いたものを教材にすると本人が特定される恐れがあるためです。型は踏んでいるのに中身がない、という状態を見せるのが目的で、実際に寄せられた声ではありません。そのうえで、授業で扱った概念を通して書いた場合の水準を並べます。
4つ目の軸は少し変わっています。学生の文を直すのではなく、刊行済みの教科書や論文から読みにくい文を集めて、一文ずつ「どこが分からないか」を書き添えました。主語がない、接続が合っていない、格好はついているが何を指すのか不明といった箇所です。専門家の書いた文でも読みにくいものは読みにくい、と先に示したうえで、自分の文を見直させました。難しく書けば通る、という思い込みを外すためです。
この資料は科目にも言語にも依存しません。
少人数で、何度も話させる
人数が少ない科目では、一人が話す回数を増やせます。理系の学生が研究成果を英語で伝えるための授業でしたが、クラス全員の前で1人ずつ発表させる形はとりませんでした。少人数のグループに分けて、そのなかで1人が同じ内容を何度も話す。教員はグループを回りながら、話の組み立てと発音の両方に助言する。そういう進め方をしていました。
聞いて分かるようになっても、それだけでは話せるようにはなりません。自分で話す量と、その場で受ける直しの両方が要ります。これも第二言語習得の研究で言われてきたことです。全員の前で1回だけ発表させる形だと、教える側には授業をやった実感が残りますが、学生が実際に話している時間はごくわずかです。
話す題材は5つから選べるようにしました。自己紹介(経歴ではなく、これまでに得た教訓や、自分の強みとして伝えたいこと)、所属する学部や大学の説明、そのとき学んでいること、教科書で扱った題材、それと自由題目です。長さは3分から5分。スライドを使うなら、スマートフォンの画面でも画用紙でも構わないことにしました。相手に伝わるかどうかが問題で、何を使うかは問いませんでした。
教科書は草稿から最終版まで自分で書きました。なぜこの進め方をとるのかも、授業中の説明とは別に文書にして学生に配りました。
英語で、メディア論をやる
「英語演習」は内容言語統合型学習(CLIL)の形をとっています。英語を学ぶのではなく、英語で学ぶ形です。題材は自分の研究領域であるメディア論で、メディア研究の知見を英語で読み、議論し、発信します。語学の時間ではありますが、学生が考えているのは中身のほうです。文法や語彙は、その中身を扱うのに必要になった場面で扱います。
言葉そのものを目的にするより、伝えたい中身があるほうが身につく。これは第二言語習得の研究で繰り返し確かめられてきたことです。専門の内容をそのまま題材にできるのは、教える側が研究者でもあるからで、どの科目でもできる形ではありません。
「英語I」は4技能をまとめて扱う対面科目です。Academic English の基礎を固めながら、音声と映像の教材にリーディング課題を組み合わせます。「英語特定技能演習」は TOEFL-ITP の結果でクラスを分け、読む・聞くの二つに絞ります。同じ語学科目でも、狙いによって組み立てを変えています。
音声課題には機械による発音評価を使っています。提出した直後に結果が返るので、学生はそのまま次の練習に移れます。返ってくるのが遅いほど、指摘は効かなくなるからです。
ただし機械の判定をそのまま信じてはいません。教員がつけた評価とどのくらい一致するのかを、実際の授業データで確かめました。その結果は2026年7月に日本第二言語習得学会で共同発表しています。全体をまとめて見たときの傾向が、授業の条件ごとに分けると変わってしまう場合があることも分かりました。こうした道具は、どのくらいずれるのかを知ったうえで使わないと、判断を間違えます。
入口は、学生の側にある
英語に気持ちが向いていない学生をどうするか。ずっと考えてきたことです。アカデミックな英語を身につけさせるうえでは好ましくない、と指摘されたこともありますが、授業の外で好きな映画やドラマを見ること、英語圏の曲をシャドーイングしたり歌ったりすることを勧め、その中身を英語で書かせてきました。
レゲエに関心を持った学生は、ジャマイカを訪ねることを目標にしてから、急に学習へ向かうようになりました。ストリートダンスをやっている学生には、英語圏のブレイクダンサーのインタビュー動画を見せました。その学生は自分から次々に英語の動画を見るようになり、授業での学習にも取り組むようになりました。
英語の時間が、卒業単位のためのものから自分のための学びに変わった例です。ただし、これはうまくいった側の話です。
北里大学の医療系学部でも同じ考え方で工夫しましたが、十分な成果は得られませんでした。専攻も、卒業後に必要になる英語も違えば、同じ入口は使えません。青森公立大学では、そもそも英語を拒むところから始まる学生に苦労しました。一人ずつ入口を探すことになります。
三脚の立て方から始める
ビデオ制作の実習は、三脚の設定の仕方とパソコンのキーボードの使い方から始めました。マイクの置き方、照明の当て方も一つずつ扱いました。作品の講評をする前に、まず機材が扱えるようになるところへ時間を回しました。手が動かないうちに構成や演出の話をしても、身につかないからです。
年度を重ねるごとに、狙った水準の作品が出てくるようになりました。一方で、グループでの作業に馴染めない学生への対応には最後まで苦慮しました。制作は分担が前提なので、そこから外れた学生をどう扱うかは、担当していた3年のあいだ解けないままでした。
(英語補助教材1)
日本語を話す人にとって英語が速く聞こえる理由を、母音と子音の使われ方の違いから説明した資料。英文の下に日本語を置いている。授業では、このあとに発音と発声の練習を行った。
授業を英語で進めるときに学生が使う表現を集めたもの。挨拶や出欠のほか、聞き返すとき、もう一度言ってほしいとき、質問されて即答できないときの言い方を入れている。
授業で配布した補助教材です。順次追加します。
教育に対する考え方と、機関ごとの担当経験は Teaching / 教育 のページにまとめています。